タバコは嗜好品とよくいわれますが、はたしてそうでしょうか。
確かに、タバコは好んで吸うものですから、そういう意味では嗜好品といえるのかも知れません。それならなぜ、世界的に禁煙が推奨されているのでしょうか。
今回は、タバコと嗜好品について考えていきましょう。
嗜好品って何だろう
そもそも、嗜好品とはどういうもなのでしょうか。
一般的に嗜好品といわれるものには、タバコ、お酒、お茶、コーヒーがあります。これらは四大嗜好品といわれています。嗜好品を辞書で引くと、「栄養を摂るためではなく、その人の好みによって味わいを楽しむ飲食物」とあります。「嗜」という字に「口」があることからも、飲食物を指しているのが考えられます。
しかしタバコは飲食物ではありません。間違って食べてしまったら大変です。それなのになぜ嗜好品と呼ばれるのでしょうか。それは、「嗜好品」の漢字にその意味が込められているのです。
「嗜」という字を見ると、「口」「老」「旨」という3つの漢字が組み合わさっています。「口にするもので、老いてからその旨みが分かるもの」と考えられます。
お酒でも、初めて飲んだビールの苦さに驚いた人もいるでしょう。コーヒーやお茶も。でも口にする回数を重ねるごとに、その旨さが分かってくるものです。タバコも同様に、最初はむせたり、臭いと思ったりしたのではないでしょうか。しかし、タバコを吸うごとに、その旨さや刺激が良いものだと感じられてきたのではありませんか?
もう一つ「嗜む」というのは、親しむ・愛好するという意味があります。これらのことから、タバコは嗜好品として考えられたのです。
タバコは好んで吸っているのではなく吸わされている!?
「嗜好」は、嗜むことや好みという意味があり、好き嫌いがあるものです。タバコも同じで、喫煙者と非喫煙者がいるように、吸いたい人は吸って、嫌いな人は吸いません。タバコが嫌いな人は、喫煙者を見ると「なんでこんなに臭くておいしくないものを吸い続けるんだろう」と思っているかも知れません。
確かに、タバコを好んで吸う人がいるのは事実です。タバコが吸いたいから吸っている。その本質は何かというと、脳がニコチンを求めているニコチン依存症です。
喫煙者の中にもタバコを吸いながら「おいしくない」と思っている人もいます。でもタバコに手が伸びてしまうのは、脳がニコチン不足になって、補給を求めているからなのです。
タバコとよく比較されるのがお酒。お酒も日常的に飲み続けていれば、アルコール依存症になってしまいます。ですが、タバコのニコチンと比べれば、その依存性はとても低いものだといわれています。
喫煙者は一日の中で何本も吸います。ヘビースモーカーなら1日に2箱、それ以上吸う方もいるでしょう。仕事中でも喫煙所に行って吸うことができます。しかしお酒はというと、お酒が好きという人でも、よっぽど重症者でない限り、仕事中にお酒を飲みたくて仕方がない!職場を抜け出してお酒を飲みに行こう!とはなりませんよね。
でもタバコはどうでしょう。禁煙中にタバコが吸いたくてイライラする、タバコの事ばかり考えてしまうということがあります。それだけニコチンは依存性が高いものなのです。
嗜好品ではないと考えられるもう一つの理由
四大嗜好品の中でも、タバコとお酒、お茶、コーヒーと明確に違うのは、周囲に影響があるかどうかです。お酒を飲んだとしても、その周りにいる人はアルコールを摂取しているわけではありません。コーヒーやお茶も、その香りが漂ってきたら飲みたいと感じることはあっても、香っているだけで、実際に飲んでいるわけではありません。
しかし、タバコはというと、タバコを吸うことで、その煙によって周囲もタバコを吸っているのと同様、もしくはそれ以上の健康被害を与えてしまっています。自分はタバコを吸わないのに、家族に喫煙者がいるために、タバコが原因とされる病気になってしまう人もいます。
タバコを吸うことを好まないのに、間接的に喫煙している受動喫煙も今、大きな問題となっています。
こういったことから、タバコは個人的な嗜好とはいえないと考えられないでしょうか。
嗜好品という言葉ができた明治時代には、まだタバコが本人に与える害、周囲に与える害が明確にされていませんでした。ですので、当時はタバコが嗜好品と考えられていたのでしょう。しかし、タバコの害が明確になった現代、タバコは嗜好品という考えを改めないといけない時代が来ているのかも知れません。
タバコを大人の嗜み(たしなみ)で吸うにせよ、マナーは大切!
タバコを「嗜む」。それは周囲を考えずに好きな時に好きなだけ好きな場所で吸っていいものではありません。「嗜み」とはいわばマナーです。
「私はタバコを嗜んでいる」とするならば、そこには必ずマナーが必要になってきます。決められた喫煙所で吸う事や子どもや家族の前では吸わない事。それは喫煙者にとって、とても面倒だと感じるかもしれません。ですが、今後もタバコを嗜んでいきたいと思うのであれば、周囲を考えたマナーは守っていきたいものですね。
もちろん、自分や周囲への健康を考えると、禁煙するに越したことはありません。それが簡単にできれば禁煙で悩んだりすることもないのでしょうが、そうもいかないのが現実。ならば、タバコを吸いながら禁煙できる『離煙パイプ』で徐々にニコチンを求めない体にしていくというのも、一つの方法かも知れません。『離煙パイプ』で、マナーを守りながら禁煙を目指してきませんか。
禁煙推進ライター 松本澄子
(参考)
「いわゆる嗜好品」逸見謙三著 筑波書房 2009年
「煙草おもしろ意外史」日本嗜好品アカデミー著 文芸春秋 2002年
「たばこ喫みの弁明」本島進著 ちくま文庫 2008年