昔の映画&TVの中でタバコは、まるで名脇役のような存在感を放っていました。ときには主役を食うことだってありました。渋い俳優がトレンチコートの襟をたて、タバコを吸いながら会話をするシーンは、それだけで絵になってしまうほど深い印象を残しています。
そんなかっこいいアイテムだったのに、いまは様々な法的規制のなかで映画&TVで使用するのが禁止されていて、いまでは喫煙シーンはかっこ悪いという人がふえています。
今回は厳選3種、渋い映画を懐かしみながら、いまはどういう規制があるのか、規制からどんな新たな動きが生まれているのかを探ってみます。
編集部厳選!おすすめの映画3選!!
映画で見るタバコのシーンはかっこいい!その姿を見るためだけに映画を観たくなることもありますよね。まずは、タバコをテーマにした映画を3作紹介します。
①勝手にしやがれ
『勝手にしやがれ』/価格 DVD ¥1,500+税/発売元・販売元 株式会社KADOKAWA
団塊世代の方なら見たことがある人も多いのではないでしょうか。ジャン=リュック・ゴダールの初長編監督作品のフランス映画。主人公はタバコが手放せず、ヒロインの女性もタバコを手にする。モノクロの画面にタバコの煙が映えて美しいとさえ思える作品です。
②ティファニーで朝食を
『ティファニーで朝食を』/価格 Blu-ray: 2,075 円(税込)・DVD: 1,572 円(税込)/発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
これはあまりにも有名な映画ですね。若い方も写真などで見たという人もいるんじゃないでしょうか。娼婦のホリーと駆け出し作家ポールのラブロマンス。ホリーがタバコを取り出すと男性二人が競うようにマッチとライターで火をつけようとする場面が印象的です。
③紅の豚
スタジオジブリ/1992年公開
最後はスタジオジブリ『紅の豚』のワンシーンから。1920年代のイタリアが舞台。空賊相手の賞金稼ぎをしている豚、ポルコ・ロッソとホテルオーナーとのジーナの恋模様の中に見える“男のロマン”が感じられる作品です。人間であったころのポルコの喫煙シーンは思わず「カッコいい」と見入ってしまいます。
平成はタバコ離れが進み、映画とタバコの関係は最悪に
本来タバコを吸わない役者が、どうしてもタバコを吸わなければいけない役を受けると、かっこよく見せるためにタバコの吸い方を研究することもあるそうです。そうしてできた喫煙シーンに魅了される人が多ければ多いほど、役者冥利に尽きるというものです。
しかし、2007年5月アメリカでは、小児科教授のジェームス・サージェント博士が、ハリウッド映画の喫煙シーンがどれほど子供に影響を与えるか、調査を行いました。その結果から、「タバコに火をつけるシーンを目にした子供は、他の要因を考慮しても自身で火をつける可能性が高い。映画は10代の喫煙の30~40%に責任がある」としました。そのうえで、映画の喫煙シーンを減らし、年齢制限をするようにハリウッドに要求。そして、喫煙シーンが多い作品の場合は、レイティング指定(以下参照)を行う基準が設けられました。
アメリカのレイティング基準
G=すべての年齢の人が見られる。
PG=年齢制限はありませんが、子供に見せるときには保護者が内容を検討。保護者が子供に適さないと思われる内容の可能性があるもの。判断は保護者にゆだねられます。
PG-13=年齢制限はありませんが、13歳未満の鑑賞には保護者の厳重な注意が必要。
R=17歳未満の鑑賞は保護者同伴が必要。
NC-17=17歳以下の鑑賞は全面禁止。
これが日本ではどうかというと、若者が見るアニメや漫画では喫煙シーンの規制はありません。しかし喫煙シーンが入った日本映画が、レイティング基準が厳しいアメリカや韓国などで放映される場合、タバコがキャンディに置き換えられたり、口元が塗りつぶされるなどして喫煙シーンを規制しています。
そんな中、日本国内でもそれなりの動きがありました。2004年に日本禁煙学会が「無煙映画大賞」を設立。これは、映画製作に携わるすべての俳優やスタッフ、映画を観る人もタバコの害から守り、タバコのない健康な社会を願うことを目的としています。作品中にタバコの煙が出ないこと、広告としてのタバコも登場しないこと、誰でも楽しめる内容であること。この3つが選考の基準となっています。
過去10年間の受賞作品
2019年 「新聞記者」 藤井道人監督
2018年 「空飛ぶタイヤ」 本木克英監督
「劇場版 コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」 西浦正記監督
2017年 「ミックス。」 石川淳一監督
2016年 「シン・ゴジラ」 庵野秀明監督
2015年 「ビリギャル!」 土井裕泰監督
2014年 「魔女の宅急便」 清水崇監督
2013年 「はじまりのみち」 原恵一監督
2012年 「しあわせのパン」 三島有紀子監督
2011年 「ツレがウツになりまして。」 佐々部清監督
2010年 「アンダンテ ~稲の旋律~」 金田敬監督
それでも“喫煙シーン”は残る?!
また2016年2月、WHO(世界保健機関)は、「映画にはタバコへの規制がない」と指摘。「映画の喫煙シーンは、未成年がタバコを吸い始めることを助長している」と報告し、喫煙シーンが含まれる映画を成人向けにすることや映画の始まりにタバコの健康被害を訴える警告を入れるよう各国政府に勧告しました。これは、ハリウッド俳優のかっこいい喫煙シーンを見て、真似をしたくなった若者がタバコを吸い始めるのを防止する狙いがあります。
また、WHO(世界保健機関)によると、アメリカでは、喫煙者となった若者のうち37%が映画をきっかけにタバコを吸い始めており、2014年のハリウッド映画の44%に喫煙シーンが含まれていたそうです。
映画&TVの喫煙シーンは確かに難しい問題です。あくまで映像の中のことと言っても、かっこいいものにしびれてしまい真似したくなるのは古今東西、老若男女問わず、みな同じです。
それが禁煙推奨の時代ということから喫煙シーンがすべてなくなってしまうのは芸術的側面から考えるとあまりにももったいない気もします。ジャンギャバンやハンフリー・ボガート、ジャン=ポール・ベルモンドのように、カッコよくタバコを吸う映画スターが今後生まれないかもしれない・・・。
芸術をとるか禁煙をとるか・・・さあ、あなたならどちらを選択されますか?
禁煙ライター 黒田知子
参考
太田光/奥仲哲也 著『禁煙バトルロワイヤル』集英社、2008年
日本禁煙学会 映画の喫煙シーンはタバコを吸う子供を増やす
http://www.jstc.or.jp/uploads/uploads/files/%20%20MTC.pdf
日本禁煙学会 無煙映画大賞
http://www.jstc.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=3
シネマトゥデイ 喫煙シーン含む映画を「成人向け」に WHOが勧告
https://www.cinematoday.jp/news/N0080024