こんな男になりたい!シブい!憧れる!俳優もアニメのキャラクターでも、そんなダンディズムを感じる人の傍らにはタバコ。
なぜタバコを持つだけでこんなにもかっこよく見えるのか、それは男性が男性らしく演出するためのアイテムというにタバコがあったからではないでしょうか。
タバコはダンディズムに欠かせないアイテムの一つだった
ダンディズムとは、美の現代性、現代性を備えた美の表現という概念で、18世紀末のイギリスが発祥。ネクタイの結び方やステッキの持ち方、胸のボタンホールに刺す飾り花など、新しい生き方(スタイル)を示すものでした。ダンディズムとは元々、流行に乗ることではなく、その逆を行く、自分の個性を表すことが美徳であるという意味でもありました。
ダンディズムは時代の流れに対する反骨精神がその源流にあります。ジェントルマンは同じような意味だと混同しがちですが、貴族的なジェントルマン社会とはまさに対極にあるものと言えます。一般的にジェントルマンは紳士的という褒め言葉として捉えられていますが、ダンディは決してそうとは言えないようです。過度なお洒落はナルシストであるとされ、むしろ侮辱されたと思われてしまうのです。ですので、もしイギリスに行ったときなど、男性に対して「ダンディだね」なんて言ってしまうと、気を悪くさせてしまうかもしれません。
そんな意味を持ちながらも、イギリスでは社会の流行に対抗するように、ダンディズムが貴族社会でも広まり、そのファッションや喫煙道具などが流行。その後ダンディズムは「優美」「上品」「貴族然とした」という表現を意味するようになりました。そこに至るまでに重要な役割を果たしたのがタバコです。
19世紀にはいると、嗅ぎタバコ、パイプ、葉巻、紙巻きたばこの4種類のタバコが主に流通していました。タバコは元々上流階級の嗜好品だったものでしたが、労働階級や女性にも喫煙層が広まっていきました。しかしその一方で、タバコは悪習慣として非難されることも。
そうした中、庶民が貴族の姿を真似ただけの似非貴族も出てきた頃、イギリスでダンディズムの流行はすたれていきました。
ところが今度は、19世紀末にフランスでダンディズムが流行するように。この頃のダンディズムとは、趣味の良さを追求する生き方という意味を持ち始めました。この頃の絵画にはタバコを吸うダンディな男性が描かれていたり、小説では非喫煙者に対して「褒められない美徳」と書かれるように、ダンディにとってタバコはなくてはならないアイテムの一つであったと言えます。そしてフランスではダンディズムという価値観は非常に高く、ロマンティックなものであると美化されていったのです。
その影響を強く受けたのが日本。日本ではダンディは褒め言葉に捉えられ、渋くてカッコいい男性がダンディという、好印象な意味が日本では定着しました。
現代のダンディズムとは
ダンディズムという言葉が生まれた当時は、美の表現として使われていました。現代では、男性が思う男性の理想像であり、自身のこだわりを追求することがダンディズムという意味が大きくなっています。
かつて、タバコがダンディズムを象徴するアイテムの一つでありました。しかし、タバコを吸わない人は、吸わないことが自分のこだわり、ダンディズムを演出するアイテムではないという事です。
こんな話を耳にしました。
ある男性が憧れている上司Aさんは、身なりも清潔で話し方も穏やか。仕事に熱意を持ち、人付き合いも紳士的。まさにダンディと言える男性でした。
Aさんは愛煙家で、タバコを吸う仕草もかっこよく、胸ポケットからちらりと見えるタバコとライターはAさんのシンボルのようにも見え、多くの部下がその上司に憧れていました。
ある日Aさんの胸ポケットからタバコが消え、喫煙所にいる姿を見ることもなくなりました。男性がAさんに理由を尋ねると、
「この年になって健康が気になるようになった」
とだけ言われたそうです。
喫煙者が吸い続けることもこだわりですが、Aさんの場合は、こだわりがタバコから健康維持になったのです。
嫌煙社会だとしても、カッコいいものはカッコいい
喫煙者にとっては肩身の狭い世の中になってしまいました。海外でも喫煙シーンがカットされたり、キャラクターが吸うタバコが棒付きキャンディに書き換えられたりしています。これはタバコを吸うシーンに憧れて若者の喫煙を防止するためでもあります。
ただ、その姿を真似たくてタバコを吸う、タバコを吸い続けるかどうかは別の話。
カッコいい俳優の仕草に憧れたとしても、タバコを吸いたくなければ吸わなければいいんです。タバコがなくてもダンディズムは演出できます。
禁煙ライター 黒田知子